short novels
the dreams of she
3.海
1.
「ねぇ、この海の向こうには何があると思う?」
何時ものように二人で海を眺めていると、彼女がふと思い出したように行った。
僕はそう聞かれ、改めて海を見る。
――――この海の向こうを僕は知っている。
彼女にこの向こうの真実を伝えるべきか僕は迷う。
彼女に教えていいものなのだろうか。
「――やっぱり答えてくれないか。君は知っているんだものね。それじゃ言ってくれる訳無いよね。」
彼女は溜息混じりにそう言い、大きく伸びをする。
「ありがと、私の事考えてくれたんでしょ?」
彼女は立ち上がり、空を仰ぐ。
僕はだんだん彼女が何を言いたいのか分からなくなった。
僕が答えられないのを知っていて、何故聞く?
その前に、彼女は真実を知っているのではないのだろうか。
「私ね、この海は本当に何処までも続いていて、終わりが無くて。その海を自分が一人で進んでいく夢を見たの。」
「だから本当にそんなことが起こったらいいのになって。」
彼女はまた空に向かって伸びをし、防波堤から飛び降りる。
「ただ、それだけ。」
そして彼女は背を向けて行ってしまう。
僕は焦り、自分も急いで立ち上がって防波堤からとび降りた。
僕が追いかけようとすると、彼女は顔だけで振り向き、
「本当に君って優しいんだね。」と小さく呟いた。
僕はその意味が分からず、思わず立ち止まってしまった。
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2006/04/06/蒼羅