short novels
the dreams of she
〜プロローグ〜
彼女のたどたどしく言葉をつむぐ声、
頬をほんのり真紅に染めた笑顔、
星空のカーテンを映すあの瞳。
まだ僕の瞳の奥に焼きついている。
今思うと、何故あの時彼女のあの表情に疑問を抱かなかったのか、
自分でも分からない。
ただ僕らは共に星の降りたる空に身を投げ出すだけで幸せだった。
あの幸せに酔いしれて、前が見えていなかったのは、僕だ。
微笑む彼女の横顔は何時も儚くて
けれど僕はそんな彼女の笑顔が大好きだったんだ。
「ねぇ、夢の話をしよう。甘く儚い夢の話を。」
2人で走って星の降り注ぐ丘にたどり着くと、何時も彼女は言った。
「甘くて儚い夢の話をしよう。」
彼女の言葉は甘い魔法のようで聴いているだけでも幸せになれた。
「私はね、詩も星空の皆形は違うけれど、元をたどれば全て夢で出来ていると思うんだ。」
彼女は口癖のように言ったっけ。
「だからね、人間もきっと夢なんだと思う。個人的意見だけど。」
僕は語尾に必ず『個人的意見だけど』と弱弱しく付け足す彼女が可愛いと思った。
そして『そんなことないよ』と首を振っていってあげていた。
そう言うと、彼女は笑ってくれた。『君って優しいのね』と。
なぁ、猫妖精(ケット・シー)。あの頃彼女の心は地上(ここ)にあったのだろうか。
彼女はあの時すでに、旅立っていたのだろうか。
空へと。
back→出会い1.
2006/01/02/蒼羅