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the dreams of she


3.猫妖精(ケット・シー)


1.

彼女は小さな人形屋のショウウィンドウの中を覗いていた。
その表情はとても安らかで僕は惹きつけられた。
一歩一歩彼女へ近づく。
この彼女の世界を壊してしまわないように、一歩を強く踏みしめて。

だんだん近づくにつれて、ショウウィンドウが僕に光を反射させる事を止め、
中を見ることが出来るようになった。


其処にあった彼女が見ているものは、猫の人形だった。
この人形の装いと胸のブチには見覚え、いや、聞き覚えがあった。

確かこの装いの猫は―――――ケット・シーだ。


僕があれやこれやと考えをめぐらせていると、彼女がショウウィンドウの中をじっと見つめたまま、そっと呟いた。

「猫妖精」

僕は更に彼女に近寄り、隣に並んだ。

「猫妖精・・・・・猫の王様。ハイランド地方の昔話に度々登場する牡牛位もある大きな黒猫。」

それだけ言うとまた彼女は黙り込んでしまう。
僕は彼女の顔を覗き込む。

「初めてこの街に来た時、私がとっても小さくて幼かった頃、この店の前を通った私はこの人形に魅せられてしまったの。」

「・・・・・・・・・・。」

「あの頃はまだこの街にも活気があって、この店にも主人が居た。あのおじいさんはこの人形を毎日見に来る私のために、これを売らずにとって置いてくれた。―――――でもそれも何年も前のお話。」

僕はなんと言ったらいいのか分からなくなった。
どんな風に彼女に声をかけてあげれば良いのだろう。
彼女の猫妖精を見つめる瞳には悲しみの色が見え隠れしていた。




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2006/04/06/蒼羅